という自らの読書体験を綴るエッセイを連載している。いよいよ、彼が大阪で、家族SF同人誌『NULL』を作る段にさしかかった。
この同人誌は『宇宙塵』と並ぶ有名なSFファンジンである。
きっとハヤカワ書房のSFマガジンより前ではなかろうか。もう少しで作家・筒井康隆の誕生かと思うとワクワクする。
そこにフィリップ・K・ディック『宇宙の眼』のあらすじが記されている。
一本のストーリーのあらすじを書くのだから、筒井康隆がどれだけこの作品に驚嘆したかがわかろうかというものだ。
パラレルワールドの話で、ある事故をきっかけに、主人公がいろんな人の精神世界に巻き込まれる話のようだ。
1957年の作で、今は創元推理文庫版(こちらは『虚空の眼』)があるようだ。
光文社の古典文庫とかで新約でも出ないものだろうか?
・・・と、それが頭の片隅に残っていたわけでもなかろうに、非常に不可解な夢を見た。
外来で患者を診終える。
診察が終わると午後からは回診だ。病棟にゆかねばならない。
妙にクリーンなホテルのような建物を自分はさまよう。だのに自分の帰属する泌尿器科病棟に行き着けない。
エレベーターに乗り、階段を登り、降りる。いろんな回廊で忙しそうに働くグリーン服のナースやドクターとすれ違う。
だが、5Fにあるはずの病棟には見知らぬ人ばかりだ。
オレはそもそも開業してるはずではなかったのか?
どうしてまた大学にいるんだろうか?つぶれた?やめた?
それとも開業してた夢を見てただけ?
うろうろしていると教授が歩いているのに遭遇する。
「回診出れなくってすみません、どこが病棟かなぜかわからなかったんですよ」
「先生、ちゃんと回診に出てたよ、でも、いっつものイヤミはなかったなあ、キレもコクも」そう教授は笑う。
「先生、これ廊下に忘れとったよ」なんか底の割れたサンダルと、古いA4のファイルを手渡される。
走り書きでびっしり何かが書かれている。
自分の字には違いないがずいぶんきたない走り書きだ。よっぽど焦って書いたのだろう。あとでゆっくり読もう。
「ちょうど、O先生がいるから医局まで連れて行ってもらったら」そういって教授はにやりと笑う。
電車に乗っている。
高層ビルのような高度で、モノレール上の軌道を電車は走る。下ははっきり見えない。
運転手もいない。全て自動運転だ。
隣に先輩のO先生がいる。妙に若く、表情に乏しく、自分が知っているO先生ではないことだけは確かだ。
「自分はどこに帰ればいいんですか?」
「そもそもこの電車でどこまで行くんですか?」
問いかけに、答えてくれているのに意味は通じない。脳をスルーしてゆく。
遥か彼方に、巨大な寺院のようなものが見える。雪を冠した山の頂なのに詳細までがはっきりわかる。
「あれはなんですか?」
「わからない、でもこの100年くらいずっと建造中なんだ」やっと言葉が通じる。
「ガウディみたいなものですかね」
「ガウディ?」
ここは十条という街だ。
愛媛?それってどこなのかな?あの海の藻屑と消えた島か?
電車はシースルーで、光を反射することでかろうじて電車を構成している外郭がわかる。
だから宙にそのまま浮かんでいるみたいで非常に怖い。
その一部がすっと開き、O先生はこともなく飛び降りる。
瞬く間に先生の身体は点になり、奈落に吸い込まれる。
ああやって一日に何度か死にたくなるんだよ。咳込んだ声で隣のPコートの老人がつぶやく。
このホームで降りることはなぜか知っている。だのに帰る家はわからない。
自分が医療を生業としていること意外はなにもわからない。
しかし、そもそも医療を生業としているということ自体が自分の作り上げた妄想なのかもしれない。
だから、O先生と自分が認識した男もナニモノなのかはいなくなった今では自信が持てない。
自分は独身なのか既婚なのか、どこに住んでいるのか、何をしてきたのか、すべてが不明だ。
これからどうするのか?
手元にあるA4ファイルだけが頼りだ。だのに降りるホームは知っている。
ホームで女子高生が待っていた。
娘?彼女?客引き?
行きましょう。長澤まさみの顔をした彼女はオレの手を曳く。
・・とまあ、どこにもたどり着かないまま、不可解な気分で眼を覚ましたのですが、
一体どういうことなんでしょう?ホント夢って謎です。