東京ノクターン
右と左にわかれるために
長い時間をかけて出会ったわけじゃない by SION
東京周辺に雷雲が鎮座している。
やっと飛行機が高度を下げはじめ、雷雲の中で、エアスポットのように踊る。
羽田到着は遅れる。
あせる。焦りは焦りを増幅する。怒りにも似た。
時間がない。タクシーで赤坂まで。
タクシーの運ちゃんがいかに自分はやる気がないのかを延々と話し続ける。
それでも東京では、やってけるんだよねえ。
俺なんかさぁ、一日の終わりに飲む酒代だけあったらいいもんねぇ。
今日は空港でまちぼうけ、
雷のせいで3時間くらい飛行機が下りてこないんで、
しょうがないから昼寝もしちゃったしね、
やる気なくなっちゃった、
赤坂方面にこうやってむかえるんで、これで早退にするよ。早退。
5時過ぎたら会社はさぁ、夜勤のおっちゃんだけになるんで、
電話で早退です、っていうだけでOKなのよ。
正職員のいる昼間じゃそうはいかないからねぇ。
でもこの業界も開業規制が弱まって、
自分らの会社みたいな大手のほうが逆に人足んないのよ、
だから、ここクビになってもいくとこあるんだ。
・・なんか、これから聴きにゆくシオンの唄みたい(『フラフラフラ』がまさにタクシードライバーの唄があった。)である。
東京は雷雨という予報であった。
何度yahooの天気予報を見ても。
それも夕方からだとのたまわれる。
あせりながら、ホテルの部屋で着替え、雨対策を完璧にして(レインコート・傘・タオル・着替え・防水バック)、再びタクシーに乗り込む。
開演の時間は迫っている。
日比谷野音の受付で柴田と合流。雨は上がっている。
雨に濡れた緑の匂い。アスファルトに波紋を映し出す様々の水溜り。蝉の声。
久しぶりに見る柴田は何も変わっていない。
大盛り焼きそばとジャンボフランクとアルコールを調達し、
はがきとチケットを交換して会場に入る。
入り口に『シオン兄さんへ』という花輪がある。ニューロティカと書かれている。
(福山雅治からのものもあったという話?)
何度もDVDとかビデオで観た野音である。
いろんなミュージシャンのいろんなシーンで観た野音。
のりのり席とじっくり席があって、じっくり席を頼んだ。
少し湿ったコンクリの席に、柴田がキティちゃんのビニールシートを敷いてくれ、そこに座る。真ん中の真ん中くらいである。
そして、軽やかに、
右の肩から三角巾を吊った、
赤いTシャツのSIONが登場し、
空は晴れてきて、
空は晴れて、
そして
・・・・空がだんだん夜の色に変わり、
俺は3度くらい泣いた。
悲しいのではなく、ただ泣くように泣いた。
涙のあふるるままに、泣いた。
ベースの井上さんが病欠とのことで、
その夜のMOGAMIはベースレスバンドだったけど、
それはそれでMOGAMI、最上の音でドカンとやってくれた。
ゲストでは、案の定、森重氏が出演し、
『場所』『午前0時のメリーゴーランド』を松田文氏のアコギで聴かせた。
東京では、成田空港に雷が落ち、電車も止まった夕方、奇跡に近い夜。
SIONを観にきてよかった。
SIONに会えてよかった。
何度か、涙をぬぐうよに、野音の空を見上げた。
雲は少なく、晴れた夜空に。
イケハタジュンジのタイコと、
サカナのピアノと、
ブンさんとカズヒコの弦楽器が
奏でるアンサンブル、
に、
シオンの声がのっかって。
奇跡にも似た。奇跡に近い夜。
なぁ、柴田。
まだまだいけそうだ。