真心
数年前、『真心ブラザーズ』が吉田拓郎の『流星』を自分たちのCDで取り上げていた。
そのCDは名曲揃いで、流星さえもなんだかオリジナルのようだった。
浜田省吾も『イメージの唄』をシングルにしていたっけ。
そうやってタクローの唄たちは時々ひょいっと顔をのぞかすのだが、タクローといえば、過去の熱き血潮がたぎるファン層のほうが多いんだろうな。
フォーク界のプリンス、和製ボブ・ディラン、中津川フォークジャンボリーのサブステージでの『人間なんて』の絶唱、
金沢事件、つま恋、フォーライフ・レコードの社長業、浅田美代子との結婚と離婚、
森下愛子(彼女は僕のファム・ファタールで彼女を奥さんにしたことだけは積年の恨みであった。
が、最近のキャラを見ていてますます好きになった)との結婚、
昔の曲は二度とやらんといいながら撤回したり、俺の言う事なんてみんな嘘だとうそぶいたり、
彼は70年代の象徴のように、身勝手で、かつ、魅力的な男だった。
僕らが中学の時は、拓郎派と陽水派に完全に分かれていた。
でも、僕はその当時は、めめしくってリリカルな伊勢正三のいたかぐや姫に心酔していた。
僕の好きな歌は『置き手紙』とか『神田川』とかそんな曲だった。
若かったあの頃、何も欲しくなかった、ただ、あなたの優しさが欲しかった・・とかいう世界である。
だから、一番ぎらぎらして、大人なんて信じるなと吠え続けていたころの拓郎のことはよく知らない。
この人はいつも怒っている人なんだ、とまあそんな感じだった。
高校時代につきあってた女の子が拓郎のことが好きだった。
彼女は天文部で、僕にペルセウス流星群のことを教えてくれた大事な人だった。
でも、本当のことをいうと、僕は、残念ながら、流星群になんて全然興味がなかったのだった。
その彼女がこんな風に手紙に書いていた。
(拓郎は)けっして、優しい人間だとは思えない。
女の子を好きになるのはウソじゃないと思うけど、いつの間にか仕事の方が大切になってる、そんなかんじがする。
だからミヨコ(注:当時の拓郎夫人だった浅田美代子さんのこと)はなんだかかわいそーな気がするんだ。
女の子って自分の仕事の方が大切だって言う人はそんなにいないと思うしネ(なんて書くと怒られそーだけど)。
でもまあ拓郎ってやっぱりスゴイよ、と思うけど。
そうなのである。
彼女はティーンエイジャーの時点で拓郎の本質を見抜いていたのである。スゴイ!
そんな彼女のことが今でも当然好きである。
うーむ、盛り上がりに欠ける文章になったが、高校生の頃の想い出はそんなもんでしょう。
今ではどうして彼女が好きだったのかわからないし、
想い出というより、もはや昔の彼女の実像は消滅し、自分の妄想で作り上げられた彼女が存在して行き続けるのだろう。