シートン 第1章―旅するナチュラリスト (1)
谷口 ジロー
狼王ロボの話は誰でも知っていると思う。
谷口ジロー氏の描くあのシートン動物記で有名な『シートン』のコミックスの第1巻は狼王ロボの話だ。
人間の叡智を越えたところで、ウシを殺戮した狼集団の長、ロボ。
ロボの首には多大な賞金がかけられ、ハンターたちはあの手この手で挑戦する。
誰もロボを捕まえることはできない。
シートンは請われて、ロボを捕獲する仕事を引き受ける。
シートンとロボの戦いが始まる。
シートンが仕掛けた罠をことごとく狼たちは掘り返し、一頭も罠にかからない。
仕掛けた毒餌は一カ所に集められ、糞尿まみれにされシートンをあざ笑うかのように置かれている。
その『悪魔の魂が乗り移っている』非情かつ冷静なはずのロボが、愛妻であるブランカを捕らえられ殺された点で、
冷静さを失い、人間の手に落ちてゆくくだりは・・
まるで平井和正氏描くところの『狼男・犬神明』と同様だ。
理性を失った狼男は、満月の下、理性を逸脱した戦いを始める。
殺されても死なない狼男の心は空っぽだ。
ふくよかな月も彼の心にはガラスのごとくよそよそしい。
愛するものを失ったときに、自分は刺されても死なない不死身の存在になっている。
なんて皮肉なメタファー。
なぜか、『ラスト・サムライ』を見ているときと同様の寂寥感を覚える。
結局ロボが滅びるものとわかっていて、
それに対して、人間の叡智が、
(ロボそのものではなく人質であるブランカを捕まえロボをおびき寄せるという姑息な手段であるのに)、
勝ってしまう、
そのことがなんかコイズミみたいでいやになっちゃうのである。
そのまんまだな。