バビロンに帰る―ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック〈2〉
スコット フィッツジェラルド, F.Scott Fitzgerald, 村上 春樹
そして彼の頭の中で、小さな動脈瘤が破裂した。
・・というような話を、フィッツジェラルドの短編で読んだ気がする。
僕もそれをまねて昔
『白い部屋にベッドが3つ』という短編を書いた。
詳細はともかく。
バブルの絶頂で、自分のベッドの両方に、二つのベッドを並べて、そこには妻と愛人が仲むつまじくしているというような構図があり、なぜか、妻と愛人は仲がいいのだった。
パーティの夜と、シャンペンの泡。3人は踊り、口づけし、微笑む。
破綻はなく、調和がある。奇跡的なくらいの。
幸福の絶頂で、彼は脳出血を起こし、寝たきりになる。
今は生きているのか死んでいるのかさえもわからない。
会社は傾き、妻は首を吊り、愛人は追い出されるようにして出てゆく。
そして誰もいない、売れもしない広大なあばら屋の寝室で、窓から風が差し込み、ボロボロになったレースのカーテンが揺れ、朽ち果てたベッドが3つ昔とおんなじまんまで並んでいるのだった。
その光景をカメラが、空から捕らえ、そして風になって、窓からカーテン越しに部屋に入ってゆき、シミの付いた壁に並んだ3つのベッドを静止画でとらえてエンドクレジット、みたいな感じだ。
なぜかそんな退廃的な気分である。
家人は、現在の(われわれの?)状態を表して、「沈没しかけた船みたいね」、といった。
沈みゆくタイタニックの甲板で、バンドは音楽を最後まで奏で、ネズミたちは逃げだし、
沈みゆくデュカプリオと、もつれ合った恋人の手は放され、
・・・・そこから永遠が始まる。
そんなもんかよ。