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    落河内の大カツラ(pirokichi劇場その)

    • 2013.12.05 Thursday
    • 12:04
    pirokichi5.jpg

    http://web.stagram.com/p/601223222774934088_13128529

    ●その1

    その樹はもう何百年もそこに佇んでいた。

    地中の養分を吸い上げ、大気を清浄化して、酸性雨に耐え、放射能に耐え、津波に耐え、嵐に耐えながら。
    いつしか地中から這い出てきた根のとっさきは、自らの上半身である大樹を見上げて、話しかけた。

    「ねえ、あんたぁ、あんたはそうやって、長いことお陽様の光やらいろんなもんに晒されてなにを手に入れたんだい?」
    「おれたちはあんたのために、このくらい土の底でずっと地上の夢を見ながら、あんたのためにせっせと養分を吸い上げてたんだよ・・」
    「そんなオイラたちの気持ちがわかるなら、あんたには答える義務があると思うんだよ、なあそうだろ?」

    大樹は黙して語らなかった。
    風が過ぎていった。

    地上の夢を見た根はいつしか地面にその根を持ち上げ、触手を伸ばし、その上に雪が振り、苔が蒸した。
    何十年かが過ぎた。
    思い出したように地面の上の地上根は大樹に語りかけた。

    「そうだな、あんたが語らないのもわかるような気がするよ、おれたちに言葉は無用なのかもしれないな・・」

    それだけの話だ。

    時が過ぎてゆく。

    ●その2

    pirokichi7.jpg


    天空には赤い月が輝いていた。
    満月は大気を血の色に染めていた。
    それはややダークであったものの、生と歓喜の赤、誇りと栄光の赤にほかならなかった。
    赤はゆっくりと、だが確実に、おれの心を満たしていった。

    例えば地下牢に監禁されていたとしても、その赤い月の存在は正確におれの心を射ただろう。
    無垢な乙女の息吹のような愛らしさと、あばずれ女の酒混じりの優しい吐息と、生まれたばかりの赤子の無防備と、そんなものを混ぜあわせたような月の存在。
    そいつがおれの心の扉をノックする。
    その波動に浸っていると、目の前のすべてがどうでもいいような気にさえなってくる。

    おれは、おれの隣で健やかな寝息を立てている娘の軀を離し、そっと天幕を出る。
    彼女の指先がいなくなったおれの身体をまさぐって宙に伸びている。
    彼女の栗色の髪が波のようにざわめいている。
    村で一番の器量よしで聡明な女だった。よそ者のおれに良くしてくれた。
    ありがとう。ほんとにありがとう。
    赤い月の下に、落河内の大カツラがそびえ、地上に影を落としていた。
    振り返り際に見た娘の細く白い肩に、赤い月の光が模様を描いた。

    あんたのこと愛してたよ、だけどね、あんたとはもう一緒にいられないんだ。
    この赤い月はおれたちヴァンパイヤのサインなんだよ。
    この月が現れたら、おれたちは戦わなければならないんだ。
    なんのためかなんてそんなことはどうでもいい。
    あんたら人間のために戦うんだなんてだいそれたこと思ってないから安心しなよ。
    ただ、今、おれの血はふつふつと煮えたぎっていて、おれのほんとに属するべきもののある場所にやっと行けるんだなって感慨で満たされようとしてるんだよ。
    たとえそこで死んだとしても、そこに赴く以外にすべはないんだよ。
    そして、それはとってもうれしいことなんだ。

    そんな物語もいつかあった。

    吸血鬼やら妖怪やら精霊やら、そんなものが息絶えて久しい夜だ。
    その娘も何人もの子を産んで息絶えた。
    その娘に咎があったわけではないだろうけど、人間だけがこうやって最後まで残ったのにも何かの理由があるんだろう。
    今はそんなふうに思うしかないのかもしれないよ・・。

    大樹は地上の枯れかけた根に静かに語りかけた。
    返事はなかった。

    「やれやれ、わたしの足元の友達ももう息絶えてしまったな、わたしが息絶えるのももう時間の問題なんじゃろうな」
    「確かにわたしはここからどこへも行けなかったかもしれないが、それにはそれで意味があったんだろう・・」

    風が吹き、雷が轟き、最後の人類の息も絶えた夜だった。

    ⇒落下内の大カツラ

    【注釈】久々にpirokichiさんの写真にinspireされました。
    これは鳥取県に有る樹齢は500年を越えると推定されている大桂だそうです。
    高さ40メートル、枝張り東西へ36.5メートル、南北へ35.6メートルにもおよぶ国内でも有数の巨木だそうです。
    ここに神が宿っていたとしても確かになんの不思議もなさそうですね。
    pirokichiさんの空間を切り取る力っていうのはほんとすごいですよね。感銘します。

    【注釈2】自分のblog調べてみると、pirokichiさんの写真を随分使わせて頂いてました。いつもいつも深謝です。

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