またまた、過活動膀胱(OAB)の話である。
前立腺肥大(BPH)を有しており、なおかつ、尿意切迫とかのOAB症状を合併する患者さんに抗コリン薬の併用をすると症状が改善するというのが、随分一般的な見解になってきた。
とはいえ、前立腺肥大は、もともとは排出路の障害であるため、
膀胱平滑筋の弛緩の方に働く抗コリン薬をやたら使うと、排尿困難とか、尿閉とかいう副作用が表に出てきて、えらい目にあう。
(実は自分も尿閉を起こさせてしまいました^^;)
TAABOスタディでは確か、ハルナール0.2+バップフォー10mg(20mg投与より)群の成績が良かったように記憶している。
少量投与がいいと考えてまず間違いないだろう。
今回、キョーリンのMRさんが下さった、
「前立腺肥大症に伴う過活動膀胱(OAB)症状に対するα1受容体遮断薬とイミダフェナシンの併用効果に関する観察研究」
(泌尿器外科 2012年 25(3),345-352)という文献をを読む。
>α1受容体遮断薬服用中の前立腺肥大症患者で、過活動膀胱症状を伴う症例に対するイミダフェナシンの併用効果とその安全性を検討した。>対象60症例において国際前立腺症状スコアと過活動膀胱症状スコアに有意な改善を示し、75歳以上の高齢者群でも75歳未満群と同等の有用性と安全性を示した。
>また、残尿の観察は必要であるものの、BPHを伴うOAB患者に対して、イミダフェナシンは通常投与量(0.2mg/日)を減量することなく比較的安全に使用できることが示された。
と要約されていて、まったくそのとおりなのだろうけど、
この中に、前立腺体積と治療成績のデータが載っていた。
<20ml,20-40ml,>40mlで比較したところ、
40ml以上の群では改善が有意ではなかったとのことだった。
また、40ml以上13例中3例に排尿困難を認め、うち2例でイミダフェナシン投薬が中止となったとのこと。
はしょって言うと、大きな前立腺には抗コリンはあんまり良くないよってことなのかな。
前立腺体積40ml以上というと、大きさでは中の上くらいなので、結構な数の患者さんがいると思う。
で、なんの話かというと、最近新たに出てきたβ3アドレナリン受容体作動薬の「ベタニス」なのである。
この薬は、抗コリンとはまた違う部位に作用する過活動膀胱治療薬なのである。
便秘とか口渇の副作用の頻度も、作用機序上少ないはずだし、一応尿閉のリスクも少ないと考えられる。
10月から長期処方が可能になったので、恐る恐る症例数を増やし始めたのだが、ことのほかいい感触なのだ。
新規の患者さんもいるし、抗コリンからの変更もある。
この薬剤は動物実験から可能性が示唆されて、創薬に至った薬剤と聞いている。
どういった症例に最もこの薬剤が適しているのか、症例が増えていけばより知見も増えて明らかになっていくだろうけど、
自分の手応えとしては、なんかいい感じなのである。
というわけで、この年末年始で、
「尿閉の既往のある前立腺肥大+OABの患者さんにベタニス使ってよかったなー」みたいなスライド作って、
2月の研究会で発表の予定なのである。
やることは限りなくある。せわしいせわしい。
ねずみ年のおっさんはchyu-chyu言いながら師走もかけずりまわるのだった。