悪魔っ子(ウルトラQ)

 またウルトラQ話。

第25話 悪魔ッ子(放映昭和41年(1966年)6月19日)。
視聴率は30.8%と書かれているから、当時、いかにこの番組が望まれていたかがわかるというものだ。

「東洋魔術団」で、生まれてからずっと、父親から催眠術をかけ続けられた少女・リリー。
彼女の精神は肉体から分離して、舞台を歩きまわる。
そして、夜、父親に催眠かけられて眠りに落ちたリリーは、『悪魔っ子』になる。
夜な夜な無邪気な笑いでヒトを錯乱させ事故を誘発し、物品を手に入れるのだ。
そして、起きたリリーの中にはその記憶は欠落している。

この邪気のなき行為を「悪魔」とタイトルに付けた脚本家の意図はどこにあったのだろう?

「悪魔がいたとすれば、それはリリーの中にではなくて、それを取り巻く世界が歪んでいたからなのです」
と番組のラストでナレーターは結ぶ。

無意識下の人間そのものの真っ白な欲望には善も悪もない。
それを規定したのが社会であるというそれだけの話だ。
「悪魔」という存在は邪気なくヒトを誘惑しヒトを滅ぼそうとするだろう、それが自分の使命で、それが悪魔だから。
だから「悪魔」は「悪魔」なんだ。
「悪魔」は「悪意」をいだいて滅びを誘発するのではないのだ。
でも我々は、たまたま人類の叡智でもって悪というものを規定し封じ込めようとした社会で生きてるし、その社会を守るためにいろんなモノを作ったんだけど、枠はもうガタガタだな・・。

永井豪の名作『デビルマン』の雷沼教授は
「悪魔は人間の心がかたちに具現化したものだ」という声明を発表し、
疑心暗鬼にかられた人類は、中世の「魔女狩り」よろしく「人間狩り」を始める。
(あの話では人類はあっという間に滅びて、その後、デビルマン(不動明)vsデーモン軍団(飛鳥了)の戦いが繰り広げられるのだけれど・・・)

だから弱い弱い人間は、今まで以上にいろんな殻を積み続けなければやっぱりダメなんだろうか・・



Hot Lemonade

  確かに、人生はやり直せるのかもしれない。
とくに、絶望や失意のあとでは、やり直せるはずだと思わないと生きていけないだろう。
だが、他に生き方を見つけるということで、単純にもとに戻ればいいというわけではない。
そして、人生にやり直しがきかないと思っている人のほうが、瞬間瞬間を大切に生きることができるような気がする。

(村上龍 『55歳からのハローライフ 第1話 結婚相談所』 2012/01/23より)

今日からは、第2話が始まった村上龍氏の新聞連載。
1話はさりげないトーンで終わった。

言葉だけの表現は難しい。
こんなふうに小説の一部分を抽出することでその前後の文脈はカットされてしまう。
前後の文脈にこそ真実が含まれていたのかもしれないし、そうでないかもしれない。
でもじゃあ真実ってなんだってことになるよね、今度は。
堂々巡りだ。
でもそれは人生とて同じ。
だから我々にできることは、その文脈文脈で最大限の対応してゆくしかないんだろうけど。
言われていることが正論でもうんざりすることってあるし、
極論だったとしても妙に納得できることだってある。
とにかくそういったコトモノどもにずいぶん疲れている(のが本音)。



すまじき熱帯

評価:
コメント:すまじき熱帯だっちゃあ

 左の睾丸が腫れてどうしようもないので自分で摘除した。
睾丸を周辺組織から用手的に剥離してゆくとツルッととれる。
最後に精管とその周辺の血管を一束にして結紮して、離断する。
なんでか痛くないんだ。
疲れ果ててそのまま昏倒し、翌朝起きて自分の股間を見てみると、取ったところはほぼ痕跡もわからないくらいになっている。
確かに睾丸は一個はないんだけど、表皮がうまいこと覆っているのでなんだか目立たないんだ。

ホントはそのあとでペニスも根部から摘除したのだけど、なんでかペニスは自分の股間においてまた生えている。
で、摘出して戸棚においたペニスは、なんかもともとの10倍くらいに膨れ上がって、どくどく鼓動さえ打っているじゃないの。
まるで別の生物だな。
持ってみるとすごく熱を持っていてそして重たい。ご神体のようでさえある。

そういえば宇和島に男根祭ってる神社があって、宝物殿は凄かったなあ。

なんでこんな夢見たんかと思い起こしてみると、

最近のニュースで、
部屋で一人でイチモツ切って死んでる男の人がいて、結果、覚せい剤内服しての自傷・自殺ということになったみたいだけど、覚せい剤ってそんな事まで許容出来るんだ、
・・という話がオレのニューロンのツボを刺激したのか?

これまた本棚の奥に鎮座していて、
やっと読み始めて、読み始めたら加速度ついて二日間で読み終えた、
平山夢明氏の『独白するユニバーサル横メルカトル』のグロテスク・ワールドが影響与えたのか?

という、自己分析。

この中の『すまじき熱帯』という、コンラッドの『闇の奥』をモチーフにして解体した短編が非常に面白かった。
コッポラは狂気の中で『地獄の黙示録』を撮ったが、こんな邪悪で笑える作品読んでると、マーロン・ブランドがなにゆえカーツ大佐だったのか、ますますわからなくなってくる。
狂気は単なる狂気で、そこには絶望とか諦念とか後付けされたものなど存在しないのし、存在しても無意味なのだ。
この作家の作品を読み進んでゆくたびに思う。

うーん、ちょっとやそっとじゃ疲れは取れないな。

土曜日から新しい透析管理ソフトが始動した。
予定では体重計との自動連携がうまく行って、水曜から稼働の筈だったけど、それに手間取って順延。
まだまだ手直しの余地は多々あるけど、これでとにかく、岸を離れて船は漕ぎ出されたってことだ。



どんがら玉子飯幻想

 雨が降っていたので家で縮こまっていたらそのまま夜が老けて(更けて)しまってちんちんも縮こまってしまったような無力感にさいなまれるんだな、これが。
こうやって刺激ないままでぼーっとしてるとぼけていくんだろうな。
やる気ないのがますます亢進していくんだろうな。
出かけようと思った頃には脚が立たなくなってたりするんだろうな。
それとも諸星大二郎の漫画かナウシカみたいに、大地と融合してドロドロになっちゃうんだろうか。
本でも読もうかと思ってページ開いていても、布団かぶって寝たままの読書だとやはり寝てしまうし、CDもどこまで聴いたのかわからんままに終わっている。
これではイカンと開いた少年漫画『マギ』の中では、アラジンとかシンドバッドが縦横無尽に活躍している。
こういった胸踊る少年漫画って稀有だな。
昔、『うる星やつら』はじめて読んだ時みたいな感動が欲しいよな、でも。
『世界中のお姉ちゃんは全部わいのモンやぁああ』って鬼のテンちゃんが火ィ吹いてたよね。
あれっ、なんか違うぞ。
それって感動じゃないじゃない??
まあいいか、それはそれ。ああ、お酒でも飲もうかな。
アントニオ猪木監修の米焼酎そういえば冷やしてたよなあ。
こないだ開けたワインはとっくにないし、マッコリ飲んだのはおとといだったよなあ。
昔からある串焼きのあの店の『拾九番』というのは巨人軍の選手の背番号からとったんだっけ、誰だ19番。
それにしても、愛大の映研が代々バイト受け継ぐって言ってたのに、久々に行ったら中国人ギャルだけで、大将、愛大とはもう縁切れたって言ってたなあ。
何年ぶりだ、行くの。3年ぶりくらい?
なんかあったんかな、それともムコウがもっと割のいいバイトでも見つけたんかなあ。今時そんな割のいいバイトなんてあるのか?
まあいいか、まあいいわ。
この店は気ィ使わんでいいからいいのよね、そんな店ってほんと数少なくなったよなあ。
チェーンの居酒屋にイチゲンで乗り込むのも気ィ使わんで済むといえば済むんだけど、それも寂しいし、知ってる店がやっぱりいいよなあ。
ああ、中国人の女の子が目の前でおむすび握ってるよ。こりゃ差別発言かな。そうだよな、おむすびも握れるようになるよな、日本語もまあまあだし。
オレなんか逆の立場なら中国で生きてけるはずないもんね、お姉さん、マッコリおかわり。
あれあれ、いつの間にか見慣れたカウンターに陣取って、ギターを鳴らしながら歌ってるよ。
今治の焼豚玉子飯の百倍くらいうまい、どんがら玉子飯はここ『のり庵』でしか食えない!
今日こそ持って行くぞ、色鉛筆用の鉛筆削り!
何書いてんのかわかんないだろうけど、いいんだ。
これはイスカンダル星雲に向けた秘密のメッセージなんだから。
いや、もっと古い『ウルトラQ』の『宇宙指令M774』だったかな。
あの話の中では、地球は緑と平和に満ちた星だってルパーツ星人が言ってたな。
でも、でもやっぱり頭の中で斉藤和義さんが叫びがこびりついてはなれないんだ。
ウッキキッキノキ。ようこそここへ猿の惑星。ウッキキッキノキ。
たしかに、ここは猿の惑星だ!あの時からもう何万光年もが過ぎて、オレはどんがら玉子飯の幻影を見ながら途方にくれて雨に打たれてるんだ!
ウッキキキノキ。



襟を正して佐野元春を聴く『 佐野元春 30th Anniversary Tour ’ALL FLOWERS IN TIME’』

  佐野元春さんといえばなんか襟を正す、と言うか、教えをこうような印象を感じる。
正座して臨まんといかんような。なぜだろう?
わかってる。それは彼がとっても真摯に音楽と向かい合い続けてるからだ。
その姿勢にまず打たれる。
だからといって音楽は二の次というわけではない。彼の音楽は良質でいつでも僕を鼓舞してくれた。

彼の30周年のライブはあの震災で、3月から順延されて6月に、東京でファイナルが展開されたそうだ。
ちょうど自分も透析学会で横浜に出かけて行ってた時のことだ。
その様子を収録したWOWOWの番組をようやく見る。
『All Flowers in Time』というタイトルだ。

ラッキーなことにそのツアーの第2部、クラブ・サーキット高松編には出かけていって、生の元春さんに何十年かぶりに再会した。
『クリスマス・タイム・イン・ブルー』で、
ステージから降りて行って最前列の子供に、tonight's gonnna be all rightのコーラスを振るシーンも番組で披露されていて、そう昔でもないのになんだか懐かしくなった。

アニバーサリーということもあってか、初期の頃の名曲も惜しげなく披露されている。
サイトを見るとiTUNEから限定ライブ配信もされているではないか。
そんな中、久々に『ロックンロール・ナイト』を聴いたらやっぱり涙が潤んできた。
もちろん、『君を探している』も、『コンプリケーション・シェイクダウン』も、『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』も、『悲しきレディオ』も、『アンジェリーナ』も、『サムデイ』もだ。
熱いアスファルトの上に腰を下ろし、夜の気配を感じる。答えなどどこにもない。自分の行き先もわからない。だけどわくわくしている。
そんな経験があったのかなかったのかさえもう定かではないが、そんな日々が蘇ってきた。

tonight's gonnna be alright!



2012.1.13「LIVE TOUR 2011-2012"45 STONES"」斉藤和義@松山市民会館。

45Stones

  もう随分昔の事のようだけど、つい数日前の出来事だ。

「LIVE TOUR 2011-2012"45 STONES"」斉藤和義@松山市民会館。

ギリギリで到着するなり開演のブザー。満員。2階もすごい人。
あとで聞くと立見席もあった様子。
2000人だって!
しょっぱなから総員立ちっぱなしで最後まで座ることもなかった。
「立ち見の人もありがとう、でもどうせみんな立ってたじゃん」とかせっちゃんはlastで言ってたけど。

Would you join me?Would you join me?

個人的に、あの震災があって、
斉藤和義という「個人的」で在り続けたように見えるヒトが、
Ustreamで、自分の歌を替え歌にして『全部嘘だったんだぜ』と歌った時、
よくやったアッパレが半分、
残り半分は、そこまでやるか、ちょっと軽薄すぎる、音楽人としてどうなんだ、無責任すぎるんじゃないか、という、批判的なニュアンスが半分で、
後者のほうが勝ってたように思う。

確かにキヨシローだったら演るよなあ、
でもアイツらEMIと縁切ってとっととそれを自主制作で出したしなあ、と、あの『Covers』と比較してみたりもした。
キヨシローに続くのは斉藤和義さんあんたしかいない、と、べた褒めする奴らに対しても、ある種の胡散臭さを抱いた。
・・のも事実。

でも、斉藤和義という『等身大』のシンガーが、
『45歳』の自分の現在をタイトルにした『45 Stones』というアルバムをリリースし、
2年に及ぶツアーに出たと知った時、
是が非でも行きたくなった。

結論はもちろん是。

せっちゃんは何のギミックもなしに、あの震災のあとで、等身大の自分のままで、『全部嘘だったんだぜ』、と、ただそれを言いたかったのだ、とよおぉく分かった。
それで十分。

オオカミが来るぞ!オオカミが来るぞ!
NO NUKES! NO NUKES!

ようこそここへ 猿の惑星 砂浜に突き出る東京タワー
ウッキキッキ!! ウッキキッキ!! ウッキキッキのキ!!

だから、オレは斉藤和義さんの『歌うたいのバラッド』とかには今ひとつ感極まらなくっても、
『やさしくなりたい』は『家政婦のミタ』のいいとこどりで、自分でも「たしかにあれはおいしすぎるよね」なんだろうそのとおりだけど、
あの歌詞にはやっぱり打ちのめされるし、
自分の言葉で歌い、
キーボードを弾き、
ドラムを叩き、
エレキを、アコギを鳴らす、
ウタウタイ・斉藤和義に対して、
こいつは自分に嘘をつかないやつ(嘘をついてもその嘘もホントだというなんかややこしさもありで)だからついていけるんだ、と、そう思ったのだった。

それはある種、村上春樹さんの小説を読んだ時の感じにも似ていた。
どんなときにも自分に嘘はつかない。

嘘でごまかして 過ごしてしまえば
たのみもしないのに 同じような朝が来る
だから歩いて帰ろう 今日は歩いて帰ろう

そう自分の足で、一歩ずつ。斉藤和義は歩いてきたのだ。
そして僕らみんなも。
ごまかしてもごまかさなくっても、この自分だってもう半世紀を生きて、自分の足で歩いてきたんだ。




今日も誰かにとってはかけがえのない何かの記念日なんだ。

 阪神・淡路大震災から17年だという。

泌尿器科の患者さんに絵をいただく。
彼とも長い付き合いで、今ではそんなに足繁く通われているわけでもない。
でも、暇に任せて描いたという絵を、この正月明けにいただいた。
誰なんですかと問うても、新聞のチラシとか見て描くんでわからないとのこと。
一枚を大体二日がかりで仕上げてますよ、ずーっとやってますよ、と、奥さん。
それにしても、さあだれなんだろうね。
このエキゾティックな美女たちは。

ジッタリン・ジンの『プレゼント』という歌を思い出す。
大好きだったからさよならしてあげるわという切ない歌だ。
ああ、彼女はホントに彼の事好きだったんだよね。
何も壊さない奇跡的な関係ももしかしたら世の中にはあるのかもしれない。
そんなの嘘だね、と粋がる自分の裏で、もう一人の自分が言いたげにしていたんだ。

今日も誰かにとってはかけがえのない何かの記念日なんだ。
今日は誰かにとってはあの震災で亡くなった人を想う日だ。
今日は昨日の明日で、明日の昨日だったりする。
そして風は流れ、川の水は同じ所にあって元の水ではない、誰かの言うが如く。




火星サーカスの夜は更けて・・(あの日の妖怪人間たちに)

  『オレ、怒っちゃうと、顔が縞々になっちゃうんだよ』
カウンターの長いスツールで、横に座った私の膝に手を持ってこようとしながら、ベムくんはわざとらしく言った。

また私を誰かと勘違いして口説こうとしてるんだ。
思わず、横っ面をはたきながら、『へぇそうだっけね!』と唇の端を吊り上げてわかるように笑う。
自慢のキュートな2本の犬歯がのぞく。
まあわざとこのスマイルやってんだけどね。
『だから肉食系、いや、ヴァンピーは嫌いなんだよ』
そう言って、ちょっと正気に戻ったらしいベムくんは、すごすごと伸ばしかけた手を引っ込めた。

その頬はしばらく紅潮していたが、潮でも引くみたいに一瞬にして消退して、そして今度は、複雑な紋様に変化し始めた。
前頭部の皮膚が隆起しはじめて、頭蓋骨の一点だけ異様に盛り上がって、そこからエイリアンの卵が孵化するみたいに花が開く。
花弁に当たる部分からツノが生えてきた。
おーやばい。
もうメタモルフォーゼ(変身)モードになるなんて、彼、だいぶ酔っ払っているんだろうな。
まあここんところ残業続きだったし仕方ないか。
自分を抑制できないんだ。
あれあれ尻尾も生えてきたよ、よだれもたらしてるよ、手も三叉に割れてきたよ、皮膚もぬらぬらしてきたよ・・。

ずっと昔、A・ベスターっていう人のSF小説に、怒りがピークになると虎みたいになるような男の話があった。
その本が書かれた1950年代のあの頃を思い出していた。
あの頃は、夜はきっちりと闇に包まれていたし、人間もモンスターに対する畏敬の念をいだいていてくれた。
ドラキュラ伯爵だって花形バリバリだった。
火星人なんてハリウッドでもキワモノ扱いの三下にしかすぎなかったんだからね!まったくもう。

そんなキッとした思いで、私は、カウンターの中にいる火星人バーテンダーをにらみつけてやる。
でも、なんと、彼は火星人の中でも誇り高い4本手の戦士部族、緑色人だ。
何ものにも屈しないはずの部族がどんな経緯でここでバーテンダーなんてやってるというのだ?
それでも彼は私に笑いかけてくれる。それもパーフェクトなスマイルで。
そんなわけで私はちょっとめそめそ顔になったが、すぐに気をとり直して、彼に微笑んでみる。
何事も外見からだ。
外見が内面を規定することだって多々ある。うーん、われながらムツカシイコト言ってるね。

「つぎは何になさいますか」
「そうね、じゃあXYZをちょうだい」
ご存知のようにこれで最後っていうカクテルだ。
私は一体何を終わりにしたいのだろう?


こんな夜はさすがの私も飲まないとやってられない。
だからベムくんの気持ちもわからないわけではない。
まったく今日の客は最低だった。いつでも人間ってやつは全てをぶち壊す。
ベムくんは特に、「正義」をなさぬ人間を見るとほっとけないタイプだ。
悪を正さないとすまないという遺伝要因というか性(サガ)というかそんなものを背負った「妖怪人間」だからなおさら厄介だ。
だが、この世の中でいまさら「正義」なんてどこに売ってるっていうんだろう?
私みたいに、代用血液でもダイエット可能な吸血鬼の生活のほうがよっぽどマシってもんだ。
生血がなくっても宅配でなんとかしのいでゆくことだってできなくはないのだから。

まったく、人間が死ななくなってから、ホントやりにくくなってしまいました。よ。
さあ、明日も団体さんのご案内だ。このタックスフリーのヘヴンではなんでもありだ。
そしてあたいらの生きてく場所はこんな所しか残っていない。
『ベラ・・』
遠いウインドウのマネキンを見てベムくんは呟くように繰り返す。
化物に変化しかけた途端に保安員から鎮静剤ぶち込まれたっていうのに、「妖怪人間」ベムくんは、昏倒からもう酔っ払いモードまでには復帰している。
だから酔って昔の女の名前を呼んでいるのは鎮静剤とアルコールの相互作用なんだろう。
彼女がいなくなってからもう何十世紀も過ぎたのにね。
可愛い男。
「ドームの外での夜の散歩もいいかもしれませんわ、でも寒いのはね、ちょっと。
だからわたくしはここから外を眺めてますわ」
隣の席のナイト・ドレスのレディが誰かにそう告げている。
緑色人のバーテンダーはグラスを磨いている。
ベムくんがまたコトバにならない声でつぶやく。
結局なんのかんの言って、隣のベムくんを傍観者みたいに眺めながら、私はため息ついてカクテル飲んでるだけなのだけど。

どこへゆこうか。私もベムくんも緑色人の彼も。

今日も火星サーカスの夜はそうやって更けてゆく。



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